平成21 年 年頭のご挨拶
~GAP 普及ニュース 第4号 2009.1(新年号)より~
GAP 普及ニュースが刊行されて初めての年頭のご挨拶を申し上げます。アメリカ発の金融破綻や自動車業界の崩壊が、あっという間に世界を駆け巡って一斉に世界的 な大不況になり2008 年が暮れました。
100 年に一度と言われているこの経済危機が、今年は市民の日常を直撃するだろうと言われて います。20 世紀の終わりから21 世紀の初頭にかけて猛威を振るった金融資本主義とグローバ リズムに振り回され、今突然寒空に放り出されたような気がします。
私は、銀行の社会的な役割は農業や商・工業などの実体経済を支え、産業を育てていくこと であると思っていました。しかし、アメリカがリードしてきた市場原理主義は、世界を単一の 市場とみて投機マネーにまかせたために、世界は金融事業自体が利益を生む金融資本主義 となり、その結果として世界的な大不況が起こったのです。
グローバリズムは、食品に関する社会不安をも大きなものにしています。小麦など世界 の穀物在庫の逼迫とそれに伴う穀物輸出国の輸出規制等により国際価格が高騰し、発展途 上国で飢餓が拡大するなどの深刻な事態も招いています。また、中国産冷凍餃子事件、牛 乳へのメラミン混入事件、事故米の不正規流通事件などの食品安全の問題や、次から次へ と発生する食品偽装事件の発覚はとどまる気配すら見えません。
日本では、一時的にせよ国産農産物への期待が大きくなっていますが、肝心の日本の生 産現場は、原油高騰を背景とした肥料・飼料や農業資材の高騰などにより農業経営が苦し められています。このように国内で自立し循環できない日本農業のアンバランスも、アメ リカを中心とした覇権主義的な市場原理主義とグローバリズムによるものであるという指 摘がされています。
EU では、1980 年代にアメリカと並ぶ農産物の輸出大国になり、ガットウルグアイ・ラ ウンドでアメリカとの厳しい交渉を決着させるために、EU 共通農業政策(CAP:Common Agriculture Policy)の大改革を行いました。それは、生産者保護のために行ってきたこれま での価格補填政策から、生産調整や環境保全を行う生産者への直接支払いへの変更です。 2000 年以降のCAP の更なる改革では、生産者に対する直接支払いは生産規模に関係なく 支払われる(デカップリング)単一支払い制度となりました。また、クロスコンプライア ンス*註としてGAP(適正農業管理)が支払いの条件として位置付けられています。
GAP の基礎として『環境、人と動植物の健康、動物福祉』についての規則・指令を守る ことがEU 共通部分としてのGAP 規準です。これらは、青果物の他に、穀物、肉用牛、酪 農部門へと対象が拡大され、結果としてEU の大半の農業生産者がGAP を実施して直接支 払いを受けています。GAP 規準には、EU 共通部分に上乗せして各国が規定できる規準が あり、それらは更なる環境対策へのインセンティブとしてEU の環境支払いの対象に位置 付けられ、有機農業の推進に大きな役割を果しています。EU は、WTO 体制の中でのEU の生残り戦略としてCAP を構築し、その中で生産者にGAP(持続的農業のための環境対 策)の実施を義務付けてきました。こうして、EU の農業環境政策は、事実上のEU 以外の 国からのEU への農産物輸出の障壁としているのです。
日本のGAP規準は、その多くがEUのGAP規準をモデルとして作成されていますが、GAP 制度を運用する側も、GAPの導入を指導する側も、そして実施する生産者自身も、GAPの 目標を農産物の安全性に重きを置いています。消費者の信頼確保は農業生産者にとって極 めて重要な課題であり、そのための安全性確保に最大の努力が必要なことは当然ですが、 食品安全がGAPの全てではありません。GAPは、単に農場内の整理・整頓や食品危害の排 除にとどまるものではありません。GAPが目指す最終のゴールは、今まで日本の農業振興 の中心的な課題であった効率的な農業技術の導入とそれによる「生産性向上」一辺倒の農 業モデルではなく、人の健康を考え、好ましい農業環境の維持を図る『持続的な農業生産 システム』を可能にする「新しい農業経営モデル」の確立にあります。
農業はもともと、市場原理主義やグローバリズムには馴染まない私達の命と文化を支え る産業です。工業立国日本の輸出振興策の見返りとして安易に農産物を輸入するのではな く、日本の生残り戦略としての食糧の安全保障と食料自給率の向上という政策基盤の上に、 消費者のための食品の安全性確保と持続的農業生産システムの構築を目指して、GAP を推 進することが必要です。
そのためにも、本年はGAP 普及センターの活動をますます充実させていきますので、宜 しくご支援のほどお願い致します。
GAP 普及センター代表 田上隆一
*クロスコンプライアンスとは、農業政策として農業者が環境保全に向けて最低限度取り 組むべき環境基準を設定し、これをクリアした農業者には各種の支援策を講じていく制度、 つまり農薬・化学肥料の不使用などによる収入減、コスト増の補填等です。他の直接支払 いを受けるときに、なんらかの環境に良い行為の達成が求められることになります。